一人っ子遠距離介護⑲ 母、自分の年を忘れる。

先日、母は誕生日を迎えた。昭和10年生まれなので、84歳になる。

 

有難いことに、グループホームでは誕生日にお祝いをしてくれる。本人の希望を聞いて、好きなものをお昼ご飯に出してくれて、みんなから「おめでとう」と言ってもらい、本人も御礼の言葉を述べるようだ。

 

好きな食べ物は、海苔巻き・稲荷寿司などが多いらしいが、なかにはトンカツやアジフライという人もいて様々。何を食べたいか聞いてもらえるのは、とても嬉しいことだろう。皆さん、自分の子供や家族のために料理することはあっても自分が作ってもらうことは少なかっただろうから、こういうお祝い事や行事はとても喜ばれるとホーム長が言ってた。

 

私たちは前日にホームを訪ねて、母にプレゼントのセーターを渡した。「お誕生日おめでとう。」というと、「ありがとう。」と、ちゃんと覚えている様子。そしてこう言った。

 

「早いよね~私も、もう66歳だわ。」

 

え!お母さん、アナタ84歳です!と思ったが、ぱっと否定したほうがいいのか、それともとりあえずは流した方がいいのか、言葉に詰まってしまった。

 

ちょっと考えて「お母さん、84歳になるんじゃない?何年生まれだったっけ?」と尋ねたら「昭和10年。」と、きっぱり答えるから、誕生日はちゃんとわかっているようだ。「あら、84だっけ。早いね~。」なんて言ってさらっと流されたのでその話はそこで終わりになった。

 

今まで自分の誕生日と年齢は絶対間違わない人だったので、いよいよきたかと思った。ホーム長に聞くと、「みなさん誕生日は間違えませんが、年齢はわからなくなることが多いです。60代という方が多いんですよ。」ということだった。「だから、お誕生会のお祝いポスターには年齢を書きません。そんなわけない、自分のことじゃない、と仰る方が多いから。」

 

敬老の日のお祝いもしないんですよ。ご本人が60代と思ってるのですから、『敬老』なんて失礼だわ、ってことになりますから。」

 

認知症見当識障害は、時間⇒場所⇒人の順に進むと聞いたことがある。日にちや時間・季節などがわからなくなり、自分のいる場所がわからなくなったり迷子になったり、家族や知人の顔がわからなくなったり、そもそも兄弟姉妹や家族がいることを忘れたりする。

 

これは一般的な進み方の例で、人によって本当に様々なんだろうと思う。現に母は、自分の年齢が初めてわからなくなったが、自分の妹な苗字はもうとっくにわからなくなっているし、妹の連れ合いのことは全然わからなくて「あの人だれ?」と私に聞いていた。

 

それにしても、60代という方が多いというのが、なんというか絶妙だな~と思った。さすがに30代40代 ではないな~でも私元気だし、60歳くらいだな、うん60歳だ!という推理が働いてるのかな?と思った。実際、みなさん(私の母も含めて)ものすごく若々しくて元気なのだ。若くはないが、くたびれてもいない丁度良い年齢、それが60代。

 

なんか、いいな~。これだけ元気で明るく過ごしてるんだから、実年齢なんてどうでもいいかなと思った。