一人っ子遠距離介護、私の場合⑰ 訪問販売の後日談

山ほどあった布団を返品し、全額とはいかなかったものの返金もされて、少しずつ平穏な日々が戻ってきた。家に押しかけて来られたり、真夜中に電話で脅されたりといったことも当然無くなり、母は心底ほっとしたようだった。

 

でも、自他ともに認める「しっかり者」の母にとっては、訪問販売につかまっちゃったことはすごく恥ずかしいことであり、ましてや娘の私に全部知られて後始末をしてもらったなんていうのは、大いにプライドが傷ついたのだろうと思う。(本人は何も言わなかったけど。)

 

それでも少しずつ落ち着いてきて、嫌な思いをしたことも薄れてきた頃。

 

いきなり警察から電話があった。訪問販売の件で話を聞きたいということで、慌てて母を連れて警察署に出向いた。体格が良くて、人相のけわしい刑事さん2人が男性の顔写真を沢山持ってきて、「お母さん、この中に知ってる顔はありますかね?」

 

母は2枚写真を選んで「この人たち、知ってます。」と言った。うちの母のところに刺さってきた布団屋は、当然ながらうちの母だけじゃなく色んな人のところにも行っていて、布団販売のほかにも詐欺とか恐喝とかやったあげく逮捕されたわけだ。

 

自分が捕まるようなことをしたわけじゃないが、警察に呼ばれるというのは緊張もするし、母にとっては大変なストレスである。

 

おっかない顔の刑事さんは、「お母さん、大変だったね。人を脅して物を売りつけるなんてのは、とんでもないことだからね。お母さんは何にも悪くないんだよ。」と、ずいぶん慰めてくれたが、母の耳に入ってたかどうかは何とも言えない。

 

せっかく忘れかけてきたのに、タイミングが悪いというか。悪いことしたヤツが逮捕されるのは良いことなのだが、母はまたちょっと思い出したようでどんよりしてしまった。

 

そのうえ、2ヶ月くらい後に犯人2人から手紙が送られてきた。反省しているとか、出所したら働いてお金を返しますとか書いてあった。こんなものはどうせ刑を軽くしてもらうためのポーズなんだろうけど、母は「私、返事出した方がいいのかな?」と言うので慌てた。

 

自分の母親が、こんなに信じやすいというか、人が良いとは知らなかった。いい人なんだな~優しいんだな~と思った。でも、それで騙されたり脅されたりするのは困るんだけど。

 

せっかく忘れかけていたことを思い出して、またなんとなく調子が悪くなった母は、この後鬱病になってしまい、3ヶ月ほど入院した。

 

今振り返ると、この頃が一番暗い時期だった。母は今、訪問販売のことも鬱病で入院したことも全然覚えていない。こんな嫌なことは覚えてないほうがいいのだから、それを考えると、認知症に救われることもあるんだな~と思う。