一人っ子遠距離介護、私の場合⑪ これは言っちゃダメだ…ということ

認知症の親と接していて、言っちゃダメなことは結構ある。(でも、時々言いそうになったりするのだけど。)

 

「それ、さっきも聞いた。(または、さっきも言った。)」

「何やってるの!」

「なんでできないの!」

「もう、いいから。わたしがやるから。」 などなど。

 

同じことを何度も何度も繰り返し聞かれたりすると、さすがにこちらも疲れてくるのでついつい「さっきも言った!」と、なってしまうのだが。短期記憶があやしくなってくると、ほんの数分前のことも覚えていないことがある。

 

母の場合、こんなことがあった。

ある日母のところに行くと、「今日の配食のお弁当はこれなの。」と見せてくれる。「ほ~美味しそうだね。」と、私。その3分後くらいにまた「今日の配食のお弁当はこれなの。」と、母。また「ほ~美味しそうだね。」と、私。これを延々繰り返すことになる。

 

そこで、「さっきも言ったじゃん!」と言いたくなってしまうのだけど、それだけはやめる。記憶障害は、本人に自覚がないからだ。さっき話をした記憶がないということは、その体験は本人にとっては存在しないことになる。

 

やった覚えのないことを「やったでしょ!」と言われても、そりゃあ本人にしてみれば言いがかりをつけられてるようなものだ。混乱したり、周囲がウソを言ってると不信感を持つ。

 

というわけで、仕方ない。とりあえずその延々とお付き合いする。10回目くらいになると、「あれ、お母さんさっきもこれ言ったかしら?」と自分で言うから大丈夫。

 

ものが覚えられなくなっているのは、本人が一番わかっていることだ。平気そうな顔をしていても、普段の生活で散々「あれっ⁇」と思う経験をしている。「私、ボケたんじゃないだろうか?」「認知症になったんじゃないだろうか?」「いやいや、まさか」「でも、もしそうだったらどうしよう…。」と、不安な気持ちでいっぱいなのだ。

 

私は、母が「お母さん、最近ボケたかもしれない。」という時は必ずこう言うことにしていた。

 

「お母さん、ちょっとボケたかも知れないけど、元気なんだからいいじゃない。ご飯も美味しく食べられるし、デイに楽しく通ってるし、大丈夫だって。ボケでは死なないから大丈夫。」

 

すると母は、パッと明るい顔になって「そうだよね。80過ぎたんだから、ボケるなんてよくある話だよね。デイにも通えるし、お母さんいい方だよね?ね?」と言う。

 

それを聞くとさすがに胸がいっぱいになる。この人、心細いんだな~、ひとりでどうしよう、どうしよう…って不安に思ってるんだなぁ。そう思ったら責められませんて。

 

以前はちゃんとできていたことが出来ない場合は、一緒にやってそれとなく手伝う。母の場合、計算が出来なくなって家計簿がつけられなくなったので、「お母さん、私が計算するから数字書いてね。」と言って一緒にやる。

 

洗濯が出来ないので、洗うのは私がやって、靴下なんかの小物を干してもらう。出来ないから、下手だからととりあげてしまわないで、小さなことをやってもらう。根気よく、ゆっくりと。いらいらしがちなんだけど、こちらも人間だから余裕が無くなってカリカリしやすいんだけど、母が悪いわけではないのです。私が試されているわけです。